アーカイブ
ESG国内外調査情報
ご登録いただいたフォーラム・メンバー様向けの限定コンテンツとして、フォーラム研究員による、国内外のESGコミュニケーション関連の調査情報を発信しています。
初回0号は、サンプル版として閲覧いただけるよう公開中ですので、ぜひこの機会にフォーラム・メンバーにご登録ください。
「ESG国内外調査情報」バックナンバー 一覧 (PDF:108KB) 2012年2月2日更新
ESG 国内外調査情報 vol.0
「新たな成長市場とESGの視点」
ESGコミュニケーション・フォーラム 研究員
中尾 悠利子
2010.8.1公開
2008年秋の世界同時不況以降、わが国の株価は落ち込み、一時持ち直したように見られたものの、欧州不安の影響から日経平均は1万円割れが続く。そのような中、「強い経済」の実現に向け、元気な日本を復活させるとし、2010年6月18日、政府から「新成長戦略」が閣議決定された。ここでは、2020年度までの平均で名目3%、実質2%以上の成長目標が掲げられ、「グリーン・イノベーション」、「ライフ・イノベーション」、「アジア経済」、「観光・地域」を成長分野とし、これらを支える基盤として「科学・技術・情報通信」、「雇用・人材」、「金融」に関する戦略を実施していくと示されている。
同じく、経済産業省からも6月3日に、『産業構造ビジョン2010』を取りまとめ、公表。今後、戦略5分野「インフラ/システム輸出(原子力、水、鉄道等)」、「環境・エネルギー課題解決産業(スマートグリッド、次世代自動車等)」、「医療・介護・健康・子育てサービス」、「文化産業立国(ファッション、コンテンツ等)」、「先端分野(ロボット・宇宙等)」に関して、国際競争力強化に取り組むこととしている。
金融面では、日本銀行から8月より貸付総額の上限を3兆円とした「成長支援の資金供給制度」が開始される。これは、「環境・エネルギー」や「医療介護健康関連」などの成長分野に、投融資する民間金融機関向けの貸し出し制度である。
政策的な支援が期待できるこれらの成長分野は、今後、どのような産業や企業に、資金が流れ、収益力を高めていくのか見極めていくのに大いに関連してくるだろう。
それでは今後、成長が見込める企業をどのように判断すればよいのか。経済誌や新聞など、日々のニュースはそれを判断する有力な情報源となる。しかし、長期的にその企業が収益力を伸ばすかどうかについて、直近の情報だけで事足りるのだろうか。やはり、それだけでは、市場変化の激しい経済社会で生き残る企業かどうかまで判断するのは難しいのではないか。

2000年前後から非財務情報として重要視されつつあるのが、ESG(環境、社会、ガバナンス)情報である。「ESG」という言葉は、国連が「受託者責任の履行を果たす上で機関投資家は、企業のESG要因を考慮する必要が高まってきている」とし、2006年に、PRI(責任投資原則)を作成した。ここで「ESG」の言葉が使用され、投資に「ESG要因を組み入れる」との文脈でよく利用されるようになった。なお、PRIには、2010年現在、700以上の世界の機関投資家が署名している。
ESGへの取り組みが、企業価値に影響を与えているかどうかについての議論は、欧米を中心に行われている。ここでは、その論点には触れず、従前では見られない産業構造の変化や新興国を中心とした新たな市場環境に対応して、企業はどのようにESG情報を開示しているのか事例を見ていきたい。
例えば、2009年、三洋電機の買収が成立したパナソニックは、2010年度の経営方針に、太陽電池事業やリチウム二次電池、エコカー市場などの「エナジーシステム事業」を大きな核にすると表明。2010年6月に発行されたパナソニックの環境報告書である「エコアイディアレポート2010」では、「環境ガバナンス」として、「CO2排出量削減量を、売上高・営業利益などに並ぶ主要経営指標」として業績評価に組み込んでいることや、2010年4月1日付で、副社長を部会長とした「環境革新部会」を新設したことを記載し、経営の中核に環境活動を据えていることが読み取れる。
2009年、ゼロ・エミッション車として、量産電気自動車「リーフ」を公表し、2010年に本格的な販売を開始する日産自動車は、事業分野の戦略転換だけでなく、社員の多様性を活かす「ダイバーシティ(多様性)」に関しても力を入れている。CEOであるカルロス・ゴーン氏は、ダイバーシティに関して、「社会的な責任を超え、ダイバーシティはビジネスにとって有用であり、競争優位にたてるチャンスであると信じています。・・・省略・・・ダイバーシティは、日産自動車とお客さまをつなぐ“橋”に例えられるでしょう。日産自動車がお客さまの有様を鏡のように反映しているのが理想の姿です。ダイバーシティは日産自動車のビジネスにおいて必須の戦略です。だからこそ、推進に向けて必要な仕組みを作り、環境を改善し、目標値を設定して取り組んでいます。」と述べている。
実際に、日産自動車は、2004年に人事部とは別にダイバーシティ推進部署を設置、また最高執行責任者COOのもとダイバーシティに関連する意思決定を行う会議体「ダイバーシティステアリングコミッティ」を運営している。これらの活動は、日産自動車の「サステナビリティレポート2010」やウェブ等で掲載されている。
複写機や複合機メーカーとして、アジアを中心としたグローバルな企業活動を進めている富士ゼロックスでは、「サステナビリティレポート2009」において、CSR活動の定量的な目標と実績を詳細に開示、また、「国際社会の課題に学ぶ」としたテーマで、国際協力機構(JICA)理事長緒方貞子氏に、国際社会における地域の課題にどのように取り組んだらよいかを、富士ゼロックス社長と相談役特別顧問との対談形式で展開している。その他、中国での資源循環システムやフィリピンのスラム街住民の自立促進に向けた活動などを詳細に記載している。
このように、企業は激変する市場環境にどのように対応しているのかについて、従来の財務情報だけでない、非財務情報であるESG情報をCSR報告書や環境報告書等で開示している。これらのESG情報が、今後の成長企業を見極める際の重要な指針となる可能性は高い。ただ、企業のCSR報告書は、読者を取引先や従業員、地域住民などを主要なターゲットとしているため、投資判断に利用できるESG情報を開示しているかというと、それを意図して開示しているわけではなく、現段階で投資判断として本格的に利用できるものとなっていない。
2008年秋の世界同時不況以降、わが国経済を牽引してきたのは新興国市場であり、今後の成長戦略においても主要な市場であることに変わりはない。しかし一方で、未成熟な労働環境や汚染、資源問題、気候変動の課題など不確実な問題が山積している地域でもある。企業は、ESG活動によってこれらの問題に対処し、不確実なリスクを回避しながら、新たな成長産業で国際競争力を高めていくことが重要となるだろう。
ESG情報を投資家向けに開示する施策は、現在、欧米を中心に議論が活発化している。わが国企業も、一部の企業で投資家向けのESG情報開示への試みが始まっている。一方、既存のESG情報の開示媒体であるCSR報告書や環境報告書について、現在、わが国では約1,000社の企業がCSR報告書を発行し※1、その開示レベルは世界各国と比較しても高く※2、すでにわが国では、ESG情報開示の素地はできていると言える。これをいかに投資家に利用される情報として取りまとめ、報告していくか。そして、投資家側へは、そのESG情報を企業の投資判断に利用していくよう促していくか。産業構造が変換し、市場環境も激変する中、企業、投資家双方に役立つESGレポートのあり方を模索し、それを市場で大いに活用される仕組みが整えられていけば、わが国の今後の成長市場を先導していくことにもつながると期待できよう。
|
● 参考文献 |